公益社団法人青森青年会議所
歌舞伎十八番之内 暫 [かぶきじゅうはちばんのうち しばらく]
作: 立田 龍宝

歌舞伎十八番のひとつである「暫」は、成田屋・市川家代々團十郎が武力と雄弁術を備えた江戸歌舞伎の極みである。
舞台は、鎌倉鶴岡八幡宮。今や、坂東諸国を平定した公家悪・中納言清原武衡[ちゅうなごんきよはらのたけひら]が臣下の鯰坊主の鹿島入道震斉[かしまにゅうどうしんさい]や女鯰の那須妹照葉[なすのいもうとてるは]、腹心の成田五郎(赤っ面)ら、大勢の家来を従い関白宣下の式を挙げようとしていた。
そこへ、加茂次郎義綱[かものじろうよしつな]の婚約者の桂の前一行が「大福帳と掛額を奉納に来る」と言いがかりをつけて、掛額を引き下ろし、腹を出した赤っ面の家来たちに命じ、太刀下と称する善良な男女を斬ろうとしていた。
まさにその時、揚幕の中で、耳をつんざくような大声で「しばらく しばらく しばらく」と声をかけて、主人公の鎌倉権五郎景政[かまくらごんごろうかげまさ]が現れる。まるで凧のような素袍[すおう]を両腕に持ち、柿色に三升の紋が染め抜かれ、六尺以上の大刀を持ち、頭には車海老に似せた車鬢[くるまびん]を被り、力の象徴を表す力紙[ちからがみ]を付け、紅を主体にした筋隈を入れ、花道七三で「つらね(長台詞)」を述べる。
追い返そうとする悪人どもをものともせず、舞台中央に進み武衡に対し、なぜ首を刎ねようとしているのか、誰の許しを得て金冠を被っているのかと、その横暴を責め、朝廷を護る宝刀雷丸と探題の印形を返せと迫る。武衡は家来に命じ景政を捕らえようとしたが、景政は義綱たちをその場から逃がし、大太刀を抜いて大勢の奴の首を次々と斬った。
悔しがる武衡を尻目に善人たちを助けた権五郎は大太刀を肩に「さらば」と大見得を切り、「ヤットコトッチャウントコナ」の掛け声につれて六方を踏んで花道を意気揚々と引きあげる場面のねぶたである。
解説文 立田龍宝